アニメ『四月は君の嘘』に関わるスタッフのリレーインタビュー。
第6回目は本作のアニメ化を実現したプロデューサー・斎藤俊輔さん。
今回のプロジェクトをけん引する斎藤さんが本作で目指していることとは?

かをりの魅力に惹かれてスタッフとのめぐりあい

――原作をお読みになった時の印象はいかがでしたか?

みなさんおっしゃっていますが、完成度が高い作品だと思いました。その中で最も印象的だったのは宮園かをりというキャラクターです。1巻目のラストの彼女の涙にとても惹かれました。「私の伴奏をしてください」が自分には「私のアニメ化をしてください」に聞こえて、「やるよ君のアニメ化。どうなってもしらないからな」と思わず心の中で応えてましたね。この作品にはいろいろな要素が詰まっていて、それが美しく描かれているんですが、その中でも突出した存在が宮園かをりで。天真爛漫でありながら、あるとき涙する、そのギャップに惹かれましたね。

――今回、初監督となるイシグロキョウヘイ監督にお願いしたきっかけはなんだったのでしょうか。

2011年にノイタミナ枠で放送された『放浪息子』にもプロデューサーとして関わっていまして。その第7話のコンテ、演出がイシグロさんだったんです。しかも、そのときの作画監督が愛敬由紀子さんで。当時、僕もイシグロさんもお互い20代だったんですが、同じ20代としてシンパシーを感じる部分があったんです。それでいつかイシグロさんとごいっしょしたいなと、インスピレーションを感じたんです。その後、イシグロさんはいろいろな作品の第1話のコンテ・演出をされていて。実力がないと任せられないポジションの仕事をされていたので、これは監督をお願いしても大丈夫なんじゃないかと。そういう客観的な情報もあわせて、『四月は君の嘘』の監督をお願いすることを決断しました。実は連絡先がわからなくて、twitterからメールをおくってお会いしたんですけどね(笑)。

――そうだったのですね(笑)。

監督も『四月は君の嘘』に興味があって、ぜひやりたいとのことだったので、スタッフィングはそこで固まりましたね。

レコーディングのときは原作を読みながら

――いろいろな要素がある中で、音楽をどのようにアプローチしようとお考えでしたか。

クラシック音楽をどういう表現で、どれくらいの完成度で映像化できるか。企画段階から、それが作品の勝負だと考えていました。自分の経験や知識だけで、この作品にふさわしいクオリティへ持っていくのは難しいと考えたので、今回はアニプレックスの立場を活かして、同じソニー・ミュージックグループのエピックレコードというレーベルに相談しました。今回『のだめカンタービレ』を手掛けられた音楽チームの方に入っていただいて、クラシック部分をつくっていだいています。

――楽曲は毎回、新たに収録しているんですよね。

そうですね。すごく優秀なピアニストの阪田さんやヴァイオリニスト篠原さんにモデルアーティストとなっていただいて、監督のディレクションのもと、あえて個性的に弾いただいています。漫画の演出にあわせて、ピアノのクオリティがあがっていくというような通常ではない要求をお願いしています。そういう音楽の部分は監督が中心となり音楽スタッフとディスカッションしながら、深めています。

――音楽の収録はいかがですか?

まず音楽スタッフの方に使用されるクラシックの魅力的な使いどころを決めて頂いてそれをもとに監督がコンテをきり、ビデオコンテを作ります。それをさらに参考にしてモデルアーティストの方にレコーディングに望んでもらっています。コンクールのパートに関してはモデルアーティストに弾いていただいていて、それ以外の音楽は横山克さんが手掛けられています。本当にいろいろな音楽要素がこの作品には詰まっていて。クラシック音楽を劇伴にアレンジしたものや、日常で流れる音楽(劇伴)まで監督が求めているものにフルメニューで応えていただいています。横山さんも子どものころのコンクール経験をお持ちだそうで、作品にシンパシーを感じてくださって高いモチベーションでお仕事に関わって頂いていてプロデューサーとしては本当にありがたいです。

初監督だからできた?音楽への徹底したこだわり

――斎藤プロデューサーがお気に入りのかをりのキャラクターデザインについてはどうでしたか。

「かわいくしてほしい」と僕が一番言っていたかもしれません(笑)。有馬公生という主人公は、かをりと出会うことで今までのトラウマや留まっていた気持ちが動かされる。ボーイ・ミーツ・ガールの作品における、恋をする相手でもあるので、原作ファンも初見のアニメファンも宮園かをりに恋して欲しいと思っていました。

――ドラマ全体はどのようなものにしたいと思ってましたか?

公生の抱えているトラウマはすごく痛々しいものですし、原作の漫画ではそこをすごく丁寧に描いています。同時に、ギャグシーンもきちんとあって、漫画自体がバラエティに富んだものになっている。そこをきちんと拾って、作品のバラエティ感は損なわずにアニメにしましょうと話をしていました。きちんと中学生らしさを織り込んでいくことによって、重たい部分は重く、明るい部分は明るく見せようと。第1話にたくさん詰まったものにしようと話をしていました。

――プロデューサーとしては第1話、第2話をどんな印象がありましたか。

第1話のサブタイトルは「モノトーン/カラフル」ということで、Aパート(前半)がモノトーンなら、Bパート(後半)はカラフルという監督の演出がハマっていると思いました。Aパートは公生の現在の心情や状況が丁寧に描かれ、Bパートでかをりと出会って物語が動きはじめるプロローグ感がある。個人的には大満足でした。第1・2・3話はボーイ・ミーツ・ガール編、4話以降は椿や渡も含めた青春編、絵見や武士が登場するあたりからはスポーツバトル編とコンセプトを立ててシナリオ会議メンバーには共有をしました。第1話ではプロローグ感を描きましたが、第2話は待望の音楽パートがあります。アニメーションプロデューサーの福島祐一さんを後悔させた、ヴァイオリンパートが来ます(笑)。

――アニメーションプロデューサーさんが後悔した?

「ヴァイオリンがこんなに大変だとは思わなかった!」とおっしゃっていました。現場は高いモチベーションで死に物狂いで作業しているところです。すごい労力を掛けて音楽シーンをちゃんと描こうとしています。

――1カットに物凄い原画が上がってくると愛敬さんもおっしゃっていましたね。

監督が初監督だからできる現場じゃないかといわれています(笑)。イシグロ監督という、パワフルに作品と向かい合う方と組めたのは幸運でしたね。普通なら避けようとする困難な道を、監督がやりたいと言ってくれる。プロデューサーとしてはありがたいばかりです。

――演奏シーンが楽しみですね。

もちろん中盤も青春感はたっぷりあります。キラキラとした瑞々しさを楽しんでほしいですね。原作の新川直司先生の描くすばらしいシチュエーションを、アニメでより輝かせようと、スタッフが意志統一して映像化しています。
まだ出てきていないキャラクターとして井川絵見や相座武士という、とても魅力的なキャラクターがいます。今後も期待してほしいですし、まず1クール目は公生の成長の部分を楽しみにしていただきたいです。

――今回は、作品のロケーションを現実にある場所にしているそうですね。

実舞台を作品に使うことへのメリットがいくつかあるんです。ひとつのメリットは具体的なモデルがあるほうが、美術設定をつくるうえでスムーズにできるということ。今回は練馬区さんに直接お願いして、文化センターなど公共施設を取材させていただきました。もうひとつのメリットは……今回は西武鉄道さんとがっつり組んでタイアップしているのですが、交通広告を展開することでより多くの人がこの作品を知っていただく機会を増やすことができるわけです。いわゆる宣伝的なメリットですね。そして、三つ目のメリットが実体験。アニメの放送が終わったあとにも、引き続きアニメの世界を楽しんでもらえるようにならないかと考えたときに現実の場所があると良いんですよね。
最近のアニメファンがよくやっていただいている聖地巡礼をしていただくことによって、放送後も生き続けていく。そういうメリットを考えて、練馬区という実在の舞台をアニメに取り入れようと考えました。

――練馬区の風景がアニメの中で見られるのが楽しみです。音楽面の広がりではコンサートも実施しますね。

音楽に関してはエピックレコードのプロデューサーが中心となっていろいろなコンサートを展開していきます。
『のだめ』の成功体験をもっているチームなので、躊躇することなくコンサートの展開を決めてくださっていて、アニメファンとはまた違う、クラシックファンにも楽しんでいただけるなものを提供しようとしています。実際に演奏するピアニストやヴァイオリニストの方々を見ていただいて、そこから作品を知っていただけたらうれしいです。モデルアーティストの阪田知樹さん(公生の演奏を担当)と篠原悠那さん(かをりの演奏を担当)のお2人も、公生とかをりに似ていて。アニメファンもコンサートに行っても、楽しめると思います。

――先日の先行試写会では、『のだめカンタービレ』のマングースが応援隊長に就任することになりましたね。

今回は講談社さんとご一緒していますし、ノイタミナという枠で放送するということもあって、お客さんに楽しんでいただけるネタは何かないかと宣伝会議で話していたんです。長時間にわたって打ち合わせをした結果、ふと「マングースを使いませんか」というアイデアが出てきて。『のだめカンタービレ』の原作者・二ノ宮知子先生も快諾してくださったんです。これは宣伝的にも広がりそうだと思ったし、ブレイクスルーでしたね。

―――今後のイベントの予定をお聞かせください。

10月19日に練馬アニメカーニバル2014というイベントがあります。ホールイベントのチケットはほぼ完売しているんですが、つつじが丘公園でもイベントが行われています。あの公園は公生とかをりが出会った公園のモデルになっているので、ぜひ足を運んでいただきたいです。あと11月上旬に、江古田にある3大学のトライアングルカレッジという文化祭イベントにもお邪魔しています。イラストコンテストをやっていますので、ぜひみなさんの描いた『四月は君の嘘』のイラストを楽しみにします。

目指すは半年後の四月
原作とアニメが同時にクライマックスを迎える春へ

――この作品をファンのみなさんにどのように楽しんでほしいと考えていますか?

この作品は各話ごとに笑えて泣けて、いろいろな感情を刺激する要素が詰まっている作品だと思うんですね。少年少女の楽しい日常も思春期の葛藤も、もやもやするところも、ムズムズするところもあるし、家族への愛も描かれている。月刊誌で連載されている原作漫画の2話分を1話にまとめているという密度の高さも含めて、いろいろな要素を楽しんでもらいたいなと思います。あと、男性諸君に対しては、かをりと椿どっちが好きなの? って聞きたいですね。あ、絵見もいますね。男視点としては女子キャラもとても魅力的なので是非応援してほしいなという所も個人的に狙いとしてあります。

――どんな反響があるのかが楽しみです。

現場のスタッフはみんな原作にほれ込んでいて、自分たちが好きな作品を裏切るようなことはしたくないという責任感でつくっています。クラシックとかヴァイオリニストって敷居が高く見えてしまう一面があると思うんです。もちろんクラシックの世界を見ていただきたいんですが、それだけでなくノイタミナ枠の『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』以来の青春ものとして、みなさんの学生時代と照らし合わせながら楽しんでもらえればすごくうれしいです。

――2クールの作品になりますが、目標があればお聞かせください。

自分の最終的な目標としては、DVDやBlu-rayといったパッケージをお客様が手にとっていただけるくらい作品を愛してもらえるものにしたいというものがあります。作品を進めるにあたって監督とは、フィルムの密度感を高いものにしようと話しをしました。それが監督のおっしゃっている「実体感」につながっているんじゃないかと思います。最終話まで通してご覧頂いた時、手元にパッケージを所有したいと思える作品になっていて欲しいです。

――先日の試写会では「原作の『四月は君の嘘』が2015年の春に完結、それにあわせて最終回までアニメ化する」ということが発表されました。この仕掛けもとても珍しいものだと思うのですが。

原作『四月は君の嘘』の単行本の3巻目が出たときに、僕はこの作品をアニメ化しようと決めたんです。構想は伺ってましたがそのころはまだ先は見えなかったんですが、作品を信じて良かったと思っています。本当に新川先生ありがとうございますという気持ちです。後半はどんどんドラマチックになっていき、毎回毎回が鳥肌ものです。その感動をさらに倍増したものをアニメとして見せていければと思っています。

――来年、素敵な「四月」が来ることを楽しみにしています。

山場はこれからです。半年後どうなってるんですかね(笑)。インタビューで述べた想いが「嘘」にならないよう全力でファンの皆様に映像作品をお届けしたいです。

次回(10月23日予定)は、福島祐一さん(アニメーションプロデューサー)のインタビューを公開します。
お楽しみに!

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