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『四月は君の嘘』連載インタビュー

アニメ『四月は君の嘘』に関わるスタッフのリレーインタビュー。
今回は現場を指揮するA-1 Picturesのプロデューサーに直撃。
ただいま絶賛制作中の現場の熱意を伺いました。


「初めて」のスタッフが集まっている新チーム

――最初に原作お読みになった時の印象はいかがでしたか。

斎藤俊輔プロデューサー(アニプレックス)から単行本の第1巻から第3巻までをいただいて、『四月は君の嘘』を初めて読みました。新川先生の原作がすごくしっかりしていて1話に物量とドラマが詰め込まれているなという印象でした。「こういう青春いいな」と思い、一度こういう作品をやってみたいと思っていたので、すんなりとアニメ化に向かいましたね。

――今回のスタッフが決まったときは、どんな印象をおもちでしたか。

イシグロ(キョウヘイ)さんは今回が初監督で、愛敬(由紀子)さん、吉岡(たかを)さんと僕にとって初めての顔ぶれでした。最初にPV(第一弾)をつくるときに、僕らの今までやってきたことと刷り合わせができたのが大きかったと思います。宮園かをりと黒猫のくだりを描くにあたり、自分が信頼している人(作画マン)をアテンドしたり、3Dや背景スタッフも自分が信頼している方々を呼んできて、僕らのチームはこんなことができるんですよと。一つずつひとつずつ良いものを提示して、監督から信頼していただき、その人たちをうまく活かせる場に今は至っている感じです。

――みなさんが最初につくったのはPVだったんですね。

そうですね、PVで最初にキャラクターが動き、色や背景、映像の方向性が決まりました。イシグロ監督も斎藤プロデューサーも僕も年齢が近くて、同世代で、頑張って、原作を大切にした良い作品を作りたいねと意気投合し、話し合っていたこともあって、みんなが最初に目指していた『四月は君の嘘』の映像感がピンポイントで実現したという感じでした。まあ……僕の過ちとしては、初監督のイシグロ監督に「監督のやりたいようにやって良いですよ」といってしまったことです(笑)。まさか本当にここまでやるとは。この路線でやると決めた以上は、極力逃げずにやりきろうと覚悟して制作している真っ最中です。

――福島プロデューサーは今回『四月は君の嘘』で、どんなスタッフを集めて、どんなチームをつくろうとお考えでしたか。

基本的には「原作を好きで、面白いと思ってくれる人に参加してほしい」というのが最初からのコンセプトでした。原作をいろいろな方に読んでもらい、原作を好きだったり、興味を持ってくれた方にお願いしました。原作をリスペクトしつつ、大切にしながら、良いアニメーションをつくろうと。上手い下手に関わらず、「この作品はここが大事!」という思いを共有できる方、そして頑張ってくれる方を集めたいなと思っていました。やっぱり、一つ一つのシーンが素晴らしいので、それを良くしようと思っている方にお願いしていきたいですからね。

――福島プロデューサーはこれまで『THE IDOLM@STER』や『ビビッドレッド・オペレーション』などA-1 Picturesでさまざまな作品に関わられていらっしゃったと思いますが、今回の『四月は君の嘘』チームはどんな特徴があると思いますか?

若い世代のスタッフが多いと思います。もちろん実力のあるベテランの方にも参加してもらっています。イシグロ監督が初絵コンテ、初演出、初作画監督と新しいスタッフを率先して起用していくスタンスなんです。カギになる話数はもちろん経験・実力ともにある方々にもお願いしているんですけど。最近のA-1 の中では「初めて」が多いチームになっているような気がします。現場ではイシグロ監督と愛敬さんがとにかくまじめに机に向かってコツコツと仕事をするタイプなので、おのずと周囲もコツコツと作業を進めるスタイルになっています。あと、僕が関わってきた作品の中では、女性のスタッフが多い作品になりました。作画監督は男女半々くらいの割合で、エンディングは高野綾さんという女性のアニメーターさんがひとりで担当してくださっていますし、男女ともに活躍する現場になっていると思います。

――「初めて」のスタッフがいると不安がありませんか?

そのあたりはイシグロ監督が非常に面倒見よく接してくださっているので。不安というよりも、どんなものが仕上がるか期待感のほうが大きいです。第1話などは、フレッシュな現場の熱量をうまくフィルムに反映できたような気はしています。

――美術や色彩も、作品の内容にあわせてカラフルな絵づくりがなされていますね。

そうですね、アニメは画面の8割9割を占めているものが、背景なんですよね。美術監督はずっと付き合いのある、薄井久代さんにお願いしました。密度感やポップな感じを美術で上手く表現してくれていると思います。キャラクターの色をつくる色彩設計も僕がすごく信頼している中島和子さんにお願いしました。薄井さんと中島さんの相性はすごく良いと思っていて、今回もそれがうまくハマった感じがありますね。原作の明と暗のコントラストを表現してくださっています。

人力で映像を描くことの大変さとそこから生み出されるもの

――今回は練馬の街へロケハンに行ったそうですね。

そうですね。イシグロ監督をはじめ、キャラクターデザインの愛敬さん、美術監督の薄井さん、美術設定の塩澤良憲さんなどみんなで学校やホールにロケハンへ行きました。「今の学校はこうなっているんだ」というリアル感をそのまま映像に反映できたので、画面がすごくしっかりしたと思います。原作を読み、資料を集め、写真資料を撮って、設定を起こすことによって、原作に寄り添ったかたちで画に説得力が出たと思います。キャラクターがそこにいるような実態感のある映像をつくることができました。ロケに行ってよかったと思っています。

――演奏シーンも力の入っているものになっています。現場は大変だったと思うのですが……。

そうですね(笑)。演奏シーンは段取りが多いです。楽曲を録って、ホールを借りて、そこで曲に合わせて篠原悠那さんと阪田知樹さんに演奏していただいて、撮影して実写の映像を用意する。その映像を見ながら作画しているので、これは大変だと思います。しかも、ロトスコープ(映像をそのままなぞってトレースする手法)でやっているわけではないので、そこはちゃんと作画しているので、完全に人力なんです。血と汗と涙が込められているものなので、そこに人の力を感じてもらえるとうれしいですね。

――ロトスコープではなく、いちカットずつ丁寧に作画で書き起こしているわけですね。

そうです。たとえば第2話の演奏シーンは監督の絵コンテがあって、監督の演出プランがあるんです。それを踏まえたうえで、演奏作画監督の浅賀和行さんというアニメーター(キーアニメーター)が、演奏中のキャラクターの動きを映像を見ながらまとめていき、汗や髪の毛のなびきなどをつけて、躍動感を出してくださっています。監督の演出と浅賀さんの作画が上手くハマって出来上がった映像です。浅賀さんのすごいところは、『四月は君の嘘』をお願いした頃は楽器も弾かない楽譜楽器も読めなかったんです。が、ご自身で勉強されて、今では楽譜もある程度読めて、音と動きのタイミングなどもわかる所までたどり着いているんです。その勉強も大変だったろうなと思い、本当に凄い人だなと思いました。

原作サイドとアニメの制作サイドがひとつになって向かう結末

――今回の作業において、福島プロデューサーが「こだわった部分」はどこですか?

キービジュアルはみんなで話し合ってコンセプトを決めました。最初のキービジュアルと次のキービジュアルはふたつセットで同時につくったんですが、その色のコントラストをはっきりさせようと色彩設計の中島さんや監督に話したのを覚えています。みなさんにお披露目する最初のビジュアルになるので、そこは印象的にしたいなと思ったんですよ。

――イシグロ監督が「こだわった部分」はどこでしたか?

イシグロ監督はデジタル技術を使うのが上手いし、おお好きなんです。だから、3Dの使い方については相当こだわっていました。最近のアニメは、レイアウト(構図)を3Dで一度組んで、それをガイドにしながらレイアウトを描くことがあるのですが、その作業をどれくらいやるかなど3Dと作画の合わせや配分に関してはイシグロ監督と頻繁に話し合いました。イシグロ監督は制作進行の経験があるので、映像の制作工程にはこだわりがありましたね。

――このタイミングで、福島プロデューサーがあえてイシグロ監督に聞いてみたいことってありますか?

いやあ……、いまの作品づくりの方向性をチョイスしましたけど、イシグロ監督は絶対後悔しているんじゃないかと思うんですよね(笑)。基本、全ての話数の全てのカットを監督チェックしていますので。特に演奏シーンに関しては、工程の複雑さがあり、どうしても監督が演出していく形になり、作業量が集中してしまい、監督自身が一番厳しい修羅の道を進んでいると思うんです。もうちょっと楽な道もあったんじゃないかなって。でも、きっと監督は背負う覚悟をしたうえで、この道を進むことを選んだのだと思うので、僕らもそれを承認した以上、一進一退を繰り返しながら突き進んでいくしかないなと思っています。

――先日の先行試写会では、『のだめカンタービレ』のマングースが応援隊長に就任することになりましたね。

今回は講談社さんとご一緒していますし、ノイタミナという枠で放送するということもあって、お客さんに楽しんでいただけるネタは何かないかと宣伝会議で話していたんです。長時間にわたって打ち合わせをした結果、ふと「マングースを使いませんか」というアイデアが出てきて。『のだめカンタービレ』の原作者・二ノ宮知子先生も快諾してくださったんです。これは宣伝的にも広がりそうだと思ったし、ブレイクスルーでしたね。

―――今後のイベントの予定をお聞かせください。

10月19日に練馬アニメカーニバル2014というイベントがあります。ホールイベントのチケットはほぼ完売しているんですが、つつじが丘公園でもイベントが行われています。あの公園は公生とかをりが出会った公園のモデルになっているので、ぜひ足を運んでいただきたいです。あと11月上旬に、江古田にある3大学のトライアングルカレッジという文化祭イベントにもお邪魔しています。イラストコンテストをやっていますので、ぜひみなさんの描いた『四月は君の嘘』のイラストを楽しみにします。

――今後の注目点はどんなところになりますか?

本当の意味で物語が動きはじめるのは第3話以降になります。かをりと公正、椿と渡以外のキャラクターが出てきて、それぞれのキャラクターの想いや心情が描かれていくので、そこを楽しみにしていただけるとありがたいなと。後半は、新川先生が描く原作といっしょにアニメも最終回を迎えるので、原作サイドとアニメの現場も一緒になって盛り上げていきたいと思いますっています。原作とあわせるのは大変だと思うのですが、ラストまでやりたいなと思っていた原作なので後半の作業も楽しみです。

――後半は涙なくしては観られない作品になりそうですね。

いやあ、後半は描くのが辛いでしょうね。作業の物量もそれなりに増えていくでしょうが、シーンの内容がシリアスなので。肉体的にも精神的にも大変かもしれません。アフレコとか、ダビングとか大丈夫かなって(笑)。

次回(10月30日予定)は、山野史郎さん(月刊少年マガジン編集部)のインタビューを公開します。
お楽しみに!