アニメ『四月は君の嘘』に関わるスタッフの連載インタビュー。
第3回目は全話で脚本を担当している、吉岡たかをさん。ベテラン脚本家である吉岡さんが、
本作で挑戦していることとは? その脚本にかける想いを伺いました。

スタッフ全員がこの作品の大ファンだからこそ……

――最初に原作をお読みになった時の印象をお聞かせください。

最初は、非常に怖いなという印象がありましたね(笑)。これは絵から音楽が聴こえてくるような演出をしている漫画じゃないですか。新川先生はとてもポエティックに、詩的に描いている。それをアニメにすることで音と色がついて時間が流れたらどうなるんだろうと。怖い仕事だなと思ったし、監督が一番怖かったでしょうね(笑)。そう思うくらい、原作はおもしろかったし、すばらしかった。一読者としては続きが気になって仕方がないです。

――脚本を書くにあたり、どんな方向性を目指しましたか。

実はスタッフはみんな原作の大ファンで、斎藤プロデューサーを含めて前のめりになっていたんですね。みんなが「ここがいい」と語り合っていたんです。そこで、あえて自分は一歩引いて、全体を見ようと思っていました。だから、今回は技術の提供に徹するつもりだったんです

――技術の提供ですか?

原作が間違いなくすばらしいというのは確かなんです。ただ、どんな原作であっても映像にするときには、再設計を絶対しなきゃいけないところがある。今回も原作の良いところを映像にするための調整に徹しました。やっぱり、そういうところは思い入れだけではできないんです。

――その場合、どのような作業をするのでしょうか。

お話に関しては原作の物語から変えていません。20分という放送尺(時間)の中に収めるための細かい調整をしています。やっぱり漫画のような「読者が自発的に読むメディア」と、映像のような「視聴者が見ていなくても時間にあわせて流れていくメディア」とは違うわけです。だから「いかに興味を引っ張っていくか」を調整しました。

――吉岡さんが原作を再構築して映像の土台をつくり、そこに監督をはじめとするスタッフが映像を組み立てていったわけですね。

もちろん、監督のテンションを落としても問題なので、監督のテンションが高くなるように気を遣っています(笑)。なにしろ打ち合わせの場はほとんど若いスタッフしかいないんです。年長者が落ち着いた姿を見せないとカッコ悪いでしょう(笑)。

吉岡さんのお気に入りのキャラクターはまさかの……柏木

――先ほど「音楽」と「詩的」な部分が難しいとおっしゃっていましたが、そこはどのように脚本へ落とし込んだのでしょうか。

原作では、演奏シーンにイメージシーンが怒涛のようにかぶってくるんですね。だから、そのまま映像にはしにくいんです。そのイメージシーンの整理をしました。漫画だと回想シーンに、ほかの人の回想シーンが混ざっても読めるんですけど、そういうことは映像ではできないのでそういうシーンを整理しています。おそらく放送中の完成映像を観ても、原作との違いをそれほど感じないだろうと思うんですが、そういう見えないところで苦労をしている感じがあります。

――今回の登場人物の中で筆が乗るキャラクターはいましたか?

えっと、柏木(澤部椿のクラスメイト/椿の恋を応援する)が一番書きやすいですね。気持ちがわかりやすい。

――柏木ですか! 有馬公生や宮園かをりは?

この作品は気持ちがみんな裏腹なんです。セリフと心の中が反対のことを言っていたりする。脚本上はセリフを書くわけですが、その真意が逆だったりするので、その真意の部分はト書き(脚本の説明文)で丁寧にフォローしないといけない。

――技術的に難しい脚本ということなんですね。有馬公生は書いていていかがですか?

公生も気持ちはまっすぐなんだけど、それが表に出ないキャラクターです。そこが14歳らしくて良いですね。毎回のアフレコに立ち会わせていただいているのですが、子ども時代のシリアスなシーンはかなり容赦なくて。ほとんどホラーみたいになっています。あのシリアスシーンは、ドラマとしても逃げていませんね。公生役の花江夏樹さんがすごく繊細な感じでやっているので、とても良い感じになっています。

――宮園かをりはどうでしょう。

かをりはひとつ間違えると、お客さんが嫌な子だと思っちゃう危険性がある。そのあたりは気を付けなきゃいけないなと思っていましたね。強い女の子のキャラクターは難しいんですよ。セリフをほんの少しだけニュアンスを変えて、マイルドさを足したり、微調整をしています。とくに序盤はかをりの抱えているものがわからないから調整が必要だと思っていました。アフレコのときは、かをり役の種田梨沙さんが試行錯誤して相当頑張っていらっしゃいます。あの役は一番難しいし、演じ方で意味が変わってしまうので、彼女だけが最後まで残って録り直す……ということもありました。現場は本当にガチでつくっているんです。

――幼なじみの澤部椿と渡亮太はどうでした?

椿は大事なキャラクターだと思います。椿のストレートな行動が、公生と対になって照らし合うんですね。渡はなんだかんだ言って一番大人のキャラクターなんですよ。いざというときに渡が公生を支えるんですよ。良い奴なんですよね。

――彼ら14歳の日常を描くうえで、意識していたことはありますか。

ギャグへの振り幅が大きいんです。絵柄も急に変わるし、どうなるのかなと不安でした。ただ、最終的に絵をつくるのは監督だし、監督に任せようと思って脚本をまとめていたところ、できあがってきた映像を見て「これは今後の救いになるな」と。どうしてもシリアスシーンが入るようになると、作品が重くなるんです。でも、あのギャグシーンが入ることで画面が明るくなる。あの年代の子たちの日常になるなと思いました。

――バランスを取るためには、ギャグシーンは重要ということですね。

新川先生の原作を脚本に起こしているときに、なんとなく感じることなんですが、もしかしたらギャグシーンは、新川先生の照れ隠しみたいな意味もあるのかもしれないなと。そういう想像をしながら、ギャグシーンを書いていました。

長いキャリアにおいて特別な意味を持った作品に

――吉岡さんが今後、本作で楽しみにしていることは何ですか?

映像が完成することが本当に楽しみですね。自分が関わってきた作品の中でも、これほど出来が楽しみな作品は珍しいと思います。普段、脚本を書いていると「だいたいこういう絵になるだろう」と想像がつくことが多いんですね。でも、この作品に関しては想像がつかない。監督が無茶苦茶やる気があって、すごく手間暇をかけて映像をつくり込んでいるんです。脚本を手渡しした時点で、私の気持ちはお客さんになっていて、オンエアを早く観たいと思っているんですよ(笑)。

――映像が楽しみであると。

実際に演奏シーンの撮影に立ち会ったんですが……。

――モデルアーティストさんがピアノやバイオリンを演奏するところを複数のカメラで撮影したそうですね。

ホールに行って、演奏しているときの指の動きなどを撮影していました。それをもとに演奏シーンを作画していて。監督が一切絵づくりに妥協していないので、楽器の再現性もすごく高いんじゃないかと期待しています。

――この原作はまだ連載中ですから、後半どんな展開が待っているかも楽しみですね。

先が見えない作品ですよね。原作の新川先生と編集者さんに、私たちはついていこうと思っています。

――結末を楽しみにしています。

私は普段、『四月は君の嘘』のような文芸的な雰囲気のある脚本を書くことがあまりないんですよ。しかも、2クールをひとりで書くというのも初めてで。そういう意味では自分にとっても挑戦の作品になります。自分の仕事の中では、際立って特別な作品になりました。ここまで来ると、最後が来るのが寂しくて。ずっと続けたいなって思うくらいですね(笑)。

次回(10月2日予定)は、横山克さん(音楽)のインタビューを公開します。
お楽しみに!

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